序文
太平洋戦争で焦土と化した日本は、東洋の奇跡と言われるほどの経済発展を遂げた。その過程で社会資本整備にも積極的に取り組んできた。一例を挙げると、日本各地に架けられている道路橋(橋長2m以上)70万橋、トンネル1万本、下水道管渠45万km、港湾岸壁5千施設(水深4.5m以深)などである。これらの施設が凄まじい勢いで老朽化している。例えば、2023年には道路橋の実に43%が、トンネルの34%が、建設後50年を経過する。社会資本が老朽化している中で、維持管理や更新への対応は待ったなしの課題である。
ところで、今まで新規の建設に力を注いできたため維持管理への対応は少し遅れている。特に、維持管理に関わる技術者の不足は深刻であり、この分野に対応できる人材の養成が急がれる。このような課題に対応するために愛媛大学防災情報研究センターでは、文部科学省の「成長分野等における中核的専門人材養成等の戦略的推進」事業の助成を受けて「地域ニーズに応えるインフラ再生技術者育成のためのカリキュラム設計」を推進している。本プロジェクトは、岐阜大学を基幹校として、長崎大学、山口大学、長岡技術科学大学、それと愛媛大学の5大学がコンソーシアムを組んで取り組んでいる。
愛媛大学では、「地域ニーズに応えるインフラ再生技術者育成のためのカリキュラム設計」を推進するために、33の組織からなる「愛媛社会基盤メンテナンス推進協議会」を設置している。同協議会には、官(国の機関である四国地方整備局、地方自治体の愛媛県土木部ならびに愛媛県下20市町)、民(関連協会・NPO)、学(愛媛大学防災情報研究センター、環境建設工学科)が参加している。
今年度は、「愛媛社会基盤メンテナンス推進協議会」のもとに、愛媛社会基盤メンテナンスエキスパート地域定着化およびカリキュラム検討委員会と愛媛社会基盤メンテナンスエキスパート審査委員会を設置した。そして、全48コマ(講義26コマ、演習7コマ、フィールドワーク9コマ、その他6コマ)からなるカリキュラムを用意し、社会基盤メンテナンスエキスパート(ME)養成講座を開講した。講座終了後には、審査委員会主催で、ME筆記試験とプレゼンテーション試験を実施した。また、社会基盤メンテナンスエキスパート(ME)養成講座シンポジウムを開催し、ME養成講座の意義を広く呼びかけた。
本報告書には、愛媛社会基盤メンテナンスエキスパート(ME)養成講座ならびにシンポジウム実施に際しての概要と防災インフラに関わるローカルカリキュラムの必要性などに関するアンケート調査結果をまとめている。ご一読頂ければ幸いである。
最後に、ME養成講座の開講、シンポジウムの実施、それと、アンケートの実施などに際して、多大なご支援ならびにご協力を頂いた関係諸氏・諸機関に心より御礼を申し上げる次第である。
平成27年2月28日
愛媛社会基盤メンテナンス推進協議会会長 矢田部龍一