序文
文部科学省 平成28 年度「成長分野等における中核的専門人材養成等の戦略的推進」事業に採択された「地域ニーズに応えるインフラ再生技術者育成のためのカリキュラム設計」の報告書の刊行に漕ぎつけることができた。関係各位に心より感謝申し上げる次第である。
アメリカでは、共和党のトランプ大統領が誕生した。トランプ大統領は選挙公約として、今後10年間で1兆ドルのインフラ投資を主張してきた。インフラ投資の拡充は、短期的な経済効果は言うまでもなく、インフラの効率的な活用により長期的な成長率を押し上げる効果も期待できる。
一方、日本では、世界トップをひた走る高齢化の進展による社会保障関係費の増大もあり、公共事業費の増加は期待できない。それにも関わらず、橋梁やトンネルを始めとするインフラの多くが老朽化してきている。そのため、限られた予算の中で、老朽化した膨大なインフラの効率的な維持管理が求められている。
効率的な維持管理を実施していくためには、事後的な管理から、計画的かつ効率的な予防管理への転換が必要である。その取り組みにより、社会インフラ長寿命化のための維持修繕に関わるコストの縮減を可能にするとともに、橋梁損壊などを未然に防ぐことにより道路網の安全性と信頼性を向上させることができる。
このような取り組みを実質化するためには、社会インフラの維持管理に関わる技術者の養成が急務である。そこで、愛媛大学では、維持管理の人材育成プログラムである「地域ニーズに応えるインフラ再生技術者育成のためのカリキュラム設計」に、いち早く取り組んでいる。本プログラムは、文部科学省からの助成金を受けて実施しており、今年度で4年目を迎え、そのカリキュラムは一層充実してきている。
今年度の特筆すべき取り組みは、12日間で計120時間の授業時間を確保することにより愛媛大学履修証明プログラムとしたことである。愛媛大学履修証明プログラムとなったことにより、修了者には「四国ME認定証」を授与できるようになった。また、講義内容の理解を深めるためにe-learningを充実させたことや、徳島大学で2日間の「橋梁メンテナンスエキスパート養成プログラム」を実施したことなども大きな成果と言える。これらの成果により、本プログラムの質の向上をはかるとともに社会的に認知されるようになった。さらに、四国の他県への展開の大きな第一歩となった。なお、取り組みの成果の一つとしてOB組織である「愛媛MEの会」の設立も挙げられる。MEの会では、現地見学会・研修会、技術者研修会や市民向け講演会への講師派遣など、様々な活動を展開している。
本年度の取り組みの概要を以下に示す。忌憚のない意見を頂ければ幸いである。
平成29年2月28日
愛媛大学防災情報研究センター長 矢田部龍一