序文
東洋の奇跡と呼ばれた戦後の高度成長期に、猛烈なスピードで社会基盤が整備された。今、日本は世界でもトップの高齢化社会を迎えている。その人口構造と同様に、あるいは、それ以上の速度で橋梁やトンネルなどの社会基盤が老朽化している。道路などの社会基盤は、人間に例えれば、動脈や静脈、また毛細血管などであり、国民生活の生命線をなしている。その生命線が、至る所で寿命を迎えようとしている。予防医学の導入により人の健康寿命を延ばすのと同様に、社会基盤にも維持管理学を導入して、長寿命化を図ることが求められている。しかし、建設に関する技能を持った技術者は多いものの、維持管理に関わる技術者は極めて少なく、手薄といえる。そのため、維持管理技術者育成への早急な取り組みが求められている。
そこで、愛媛大学では、文部科学省の成長分野等における中核的専門人材養成等の戦略的推進事業の助成を受けて、「地域ニーズに応えるインフラ再生技術者育成のためのカリキュラム設計」に取り組んできており、今年度で3年目を迎えている。今年度は、過去2年間の成果をもとに、以下の点でさらなる充実を図った。
・カリキュラムの高度化
初年度は3日間、2年目は10日間、3年目は12日間の講座として、効果的にフィールドワークを取り込んでカリキュラムの充実を図っている。また、最終試験に筆記試験を導入し、合否は、専門筆記試験、論文試験、口頭試問の総合点で評価することとし、修了認定を厳格化した。今年度の最終合格者は22名であった。
・四国地域への拡大
本講座の他県への展開が求められる。そこで、今年度は、四国の各大学の先生方に講師として協力頂いた。また、四国4県の土木部、ならびに四国地方整備局の関係者で、四国各県の維持管理に関わる技術者育成への取り組みの現状と課題を整理するとともに本講座への意見を頂いた。
・大学による資格認定制度の検討
本講座は120時間を超える講座であり、修了認定書を発行できる。それだけでなく、本講座を修了し、最終試験に合格した受講生に対して愛媛大学長による維持管理技術者としての資格認定について検討した。来年度から資格認定の方向で取り組むこととしている。
・自立への方策検討
本講座は、文部科学省による助成金終了後も継続しなければならない。そのために様々な検討ならびに取り組みをした。
本報告書には、愛媛社会基盤メンテナンスエキスパート(ME)養成講座ならびにシンポジウム実施に際しての概要と本講座などに関するアンケート調査結果をまとめている。ご一読頂ければ幸いである。最後に、ME養成講座の開講、シンポジウムの実施、それと、アンケートの実施などに際して、多大なご支援ならびにご協力を頂いた関係諸氏・諸機関に心より御礼を申し上げる次第である。なお、修了生のネットワーク強化のために、修了生により「愛媛MEの会」も設立された。併せて、ご支援いただければ幸いである。
平成28年2月29日
愛媛社会基盤メンテナンス推進協議会会長 矢田部龍一